ロシアでは22日、プーチン大統領の2036年までの続投を可能とする憲法改正案の是非を巡る全国投票が行われるはずだった。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大で延期になり、実施日程のめどはつかない。 5月に予定された第2次世界大戦戦勝75周年式典の軍事パレードも延期。旧ソ連国家保安委員会(KGB)の元将校だったプーチン氏が長年、自身のおかげでロシアが復活を遂げたと誇示するために利用してきた歴史顕彰のイベントだった。 プーチン氏はこれまで数々の危機を乗り越えており、政権転覆が差し迫っている兆候が出ているわけではない。しかし00年からロシアを支配してきた同氏の前には今、多くの問題が山積している。 ロシア経済の命綱である石油の価格は、過去約20年で最低の水準に落ち込んだ。ルーブルは現在、世界で最も下落している通貨の1つだ。ロシア最大手行の予想では、原油価格が1バレル=10ドルを割り込むと同国の国内総生産(GDP)は15%下押しされる恐れがある。 13年にロシアを離れたエコノミストのセルゲイ・ギュリエフ氏は「マクロ経済の崩壊にはならないだろうが、人々の暮らしが成り立たなくなるのは心配だ」と言う。 アレクセイ・クドリン元財務相は、失業者数が年内に3倍以上に増え、800万人に達すると予想した。 ノルデアのエコノミストによると、ロシアの石油・天然ガス収入は1650億ドル(約17兆7800億円)減少する可能性がある。政府はただでさえ大幅な赤字財政を穴埋めするため、金・外貨準備から多額を拠出する必要に駆られそうだ。 ロシア国立研究大学経済高等学院のセルゲイ・メドベージェフ教授は「あらゆる要素が相まって、プーチン氏は執政20年間で最大の試練に見舞われている」と言う。 「景色が一変した。安定が損なわれ、プーチン氏の権威はがた落ちとなり、(政界・財界の)エリート層は造反を画策しているかもしれない。今後1年間、政権は生き残りモードに入る」 【関連記事】 ・欠陥マスクとマスク不足と中国政府 ・ベルギーの死亡率が世界一高いといわれる理由、ポルトガルが低い理由…… ・東京都、新型コロナウイルス新規感染が112人確認 都内合計4000人を突破 ・新型コロナウイルスをめぐる各国の最新状況まとめ(28日現在) ===== 支持率低下 ロシアで確認された新型コロナ感染者数は約5万8000人、死者数は513人で、プーチン氏はモスクワ郊外にある公邸からビデオ会議などを用いて執務している。 世論調査会社レバダによると、同氏の支持率は63%と、2013年以来で最低となった。 社会不安の兆しも見え始めている。ロシア南部で20日、ロックダウン(封鎖措置)に反発するデモが実施されたほか、オンライン上では抗議の声が散見され、零細企業からは当局の支援が不十分だとの不満も広がっている。 個人事業主は現在、休業しつつも従業員への給与支払いを続けるよう通告されている。 自動車修理店を営むダリヤ・カミンスカヤさんはロイターに対し、仕事が無くなり、ポケットマネーで従業員7人の給与を支払ったと語った。「過去の革命はこうやって始まった。プロレタリアートからね」 ある年配のビジネスマンは、中小企業で破綻の連鎖が起こると予想。「(旧ソ連が崩壊した)1991年ほどひどくはないにしても、苦しい状況が訪れる。暴力的行動や大規模な抗議活動は実現しなくても、国民が一触即発状態になっていくことはありそうだ」と語った。 プーチン批判 プーチン大統領は新型コロナとの闘いで当初、前線に立たなかったと批判されているが、大統領府は地域の指導者に対応を任せたのは適切だったと批判を一蹴する。 しかしプーチン氏が米国その他の国々に恩を売るため医療物資を送ったことは、物資が手に入らない国民の一部から不評を買った。 薬局でマスクも解熱剤も買えなかったある女性は今月、「たぶん全部、米国にあげてしまったのね。なぜそんなことを」と嘆いていた。 プーチン氏の任期はまだ2024年まで残っている。同氏は国営テレビを味方につけ、警察は抗議活動を抑え込むようきちんと訓練されており、司法も抗議活動に対する厳しい法律を使ってデモ参加者を罰することができる。これらは実証済みだ。 政府は金・外貨準備として5500億ドル超を確保しており、財務省は油価の低迷が長引いても乗り切れるとしている。プーチン氏はこれまで国家権力をてこに野党の抑え込みに成功しており、野党からの差し迫った脅威は顕在化していない。 しかし一部には、経済的な苦境と新型コロナ対応への不満が沸騰しかねないとの見方もある。 野党政治家のウラジミール・ミロフ氏は今月、「圧政と国家親衛隊とでは、国民の真の不満に十分対抗できないだろう」と記し、革命的な状態は進みつつあるあるとの見解を示した。 一方で、プーチン氏は失脚しないと予想する声もある。メドベージェフ教授は「国民の苦しみは深まり、反乱や騒動は起こるかもしれないが、それが直ちに政治体制の変化を招くことはないだろう」と述べた。Andrew Osborn [モスクワ ロイター]Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます 【関連記事】 ・欠陥マスクとマスク不足と中国政府 ・ベルギーの死亡率が世界一高いといわれる理由、ポルトガルが低い理由…… ・東京都、新型コロナウイルス新規感染が112人確認 都内合計4000人を突破 ・新型コロナウイルスをめぐる各国の最新状況まとめ(28日現在)   ※画像をクリックするとアマゾンに飛びます2020年5月5日/12日号(4月28日発売)は「ポストコロナを生き抜く 日本への提言」特集。パックン、ロバート キャンベル、アレックス・カー、リチャード・クー、フローラン・ダバディら14人の外国人識者が示す、コロナ禍で見えてきた日本の長所と短所、進むべき道。