<規制緩和と同時にクラスターが発生したソウルの繁華街。だが問題は感染だけではなかった> 今Netflixで世界配信され、各国で人気を集めている韓国ドラマ『梨泰院クラス』。このドラマでソウルにある繁華街梨泰院の存在や雰囲気を初めて知った人もいただろう。 しかし、今や「梨泰院」というとクラブなどで新型コロナウイルスのクラスターが発生した繁華街、というイメージが付いてしまった。また現地韓国では梨泰院に遊びに行っていた芸能人への批判やセクシャルマイノリティへの差別問題にまで発展する事態となっている。 新型コロナの規制緩和と同時に大規模感染が発覚 大邱でのクラスター発生から一時は感染が爆発的に増加したものの、その後見事な抑え込みを成功させた韓国。今月6日には「緩和した社会的距離の確保」から「生活の中の距離確保」へと規制を緩めることとなった。 緩めたといっても、完全に終息したわけではないため、国のガイドラインでは、引き続き手洗いや、2m(少なくても1m)の間隔をあけ、消毒や換気を十分に行うことなどの注意が呼びかけられている。 しかし、今まで抑え込まれていた自粛ムードから解き放されたかのように、人々が街にあふれだした。再開した店では、距離確保どころかマスク着用すら守っていない客も多く、いつ新たな感染が発生してもおかしくない状態になっていた。 そして5月6日、「生活の中の距離確保」へ規制緩和された当日に、4月末からの連休中に梨泰院を訪れた20代会社員の感染が確認され、その導線にいた約2000人の濃厚接触者によるクラスター発生が明るみになってしまった。 このクラスターは、梨泰院を直接訪れた人だけでなく、そこで感染した人がさらに家族や友人などに感染を拡大させたことで、すでに197人以上の感染が確認され、4次感染まで広がりを見せている。 梨泰院という多国籍文化が集う若者に人気の街らしく、外国人感染者の発症や、塾の講師から10代学生への感染も拡大しており、不安がひろがっている。20日には仁川市が授業を再開した高校3年生に対して、1時間目の授業終了後、そのまま帰宅させる措置を市内66の高校に対して指示する事態になっている。 ===== 米兵やゲイなどさまざまな人を受け入れる街、梨泰院 クラスター発生の舞台となった梨泰院は、米軍基地が近くにあったことから、外国人が多く集まる独特の雰囲気をもつ街として繁栄してきた。 ソウルでクラブのある繁華街といえば、江南を思い浮かべる人も多いが、高級エリアの江南に対して梨泰院はもっとカジュアルで雑多な人が行き交う多国籍な雰囲気の街だ。クラブをとっても、江南はドレスコードがあったり年齢制限(30代までといった上限)があるが、梨泰院はそこまでうるさくないし、ゲイが集まるようなバーは江南では見かけることはない。 ソウルの繁華街を東京になぞられえて、江南は銀座、梨泰院は六本木という例えで語ることがある。だが、イスラム圏を含めたさまざまな国の人、ゲイなどのマイノリティを受け入れる、何でもありな雰囲気は新宿二丁目の方が近いかもしれない。 BTSのジョングクや元KARAギュリなども行っていた そんなカジュアルでありつつ、ちょっと危険な雰囲気も漂う街は、芸能人たちもよく訪れるスポットとしても知られていた。そのため今回新型コロナウイルスのクラスター発生が明るみになったときから、ネットでは「梨泰院でアイドルを見かけた」との噂が流れていた。 そして、18日あるネットメディアが「噂の出回っていた<梨泰院のアイドル>の正体はBTS防弾少年団ジョングク、ASTRO チャ・ウヌ、NCT ジェヒョン、SEVENTEEN ミンギュだ」と報道。4人の各所属事務所はその日のうちにこの報道を事実と認めて、社会的距離を置くべき期間中に梨泰院を訪れたことを謝罪した。 梨泰院で遊んでいた芸能人は男性だけではない。日本でも人気のあった元KARAのメンバー・ギュリが、クラスター発生当時クラブKINGに入店していたことを認めている。一部の客はギュリがマスクをしていなかったと発言し、批判が集まっていたが、ギュリは事務所を通じて入店からマスクを着用し、すでに検査も受けて陰性判定を貰ったことを謝罪文と共に発表している。 ===== クラスター発生源はゲイクラブ こうした芸能人のクラブ訪問の問題とは別に、今回のクラスター発生が注目を集めたのは、感染爆発を引き起こした感染者が訪れた先が「ゲイクラブ」だったことが影響しているようだ。 ドラマ『梨泰院クラス』で主人公が語っていたように梨泰院という街は「自由」な雰囲気を感じさせる。国籍やジェンダーの偏見を越えて受け入れてくれる街である。そのため、他の地域には観られないセクシャルマイノリティ専門のバーやクラブが多く集まっている。 今回クラスターが発生してしまったクラブKINGもそのうちの一つだったことから、韓国民のセクシャルマイノリティへの風当たりが強くなっている。 当初韓国内の一部メディアは、「ゲイバー」という部分を強調するかのように報道していたが、その後12日に「韓国ゲイ人権運動団体」が緊急記者会見を開き、このような表現を続けていると差別につながることを訴えると、各社記事を修正する動きがあった。また、5月17日は国際反ホモフォビア/反バイフォビア/反トランスフォビアの日だったのだが、毎年この時期に行われる各種セクシャルマイノリティ関連イベントも、今年は自粛することを発表した。 一方で、今まで徹底的な感染者の足取り公開徹底し、感染拡大を封じ込めてきた韓国だったが、今回はゲイバーであったことから、本人が名乗り出ずに検査も拒否しているケースも見られる。このことに関して、本人もゲイであり、梨泰院にいくつもお店を出しているタレントのホン・ソクチョンが、SNSを通じて「今勇気を出す時である。」「匿名保障でコロナの検査も可能なので、検査を受けて欲しい」と呼びかけている。 また、その数日後には、トランスジェンダータレントとして有名なハ・リスもSNSに「自分一人ぐらい...と考えずにみんなの為にも検査を受けてください」と訴える投稿をアップした。 行政までもがマイノリティを「魔女狩り」 しかし、このような呼びかけもむなしく、魔女狩りはすでに始まっているようだ。特に自治体が、人権をないがしろにしたかのような対応をしたのが問題になっている。折角感染拡大が収まりを見せた矢先のクラスター発生で、感染第2派となることを防ぐため、速く対応したいという考えが裏目に出たようだ。 仁川市は「仁川クイアー文化祭」の組織委員会の名簿を提出するよう要求するなど、プライバシーを無視した行為が波紋を広げた。 また、安養市は感染者の住所やアパート名まで公開。それにより第1感染者の会社員男性の家には「あなたのせいで学校再開が遅れ、子供たちが学校にいけなくなってしまった」という保護者有志による張り紙が貼られる事件が発生した。 魔女狩り行為は韓国芸能界にまで及んでいる。元々ゲイ疑惑のあった歌手のジョ・クォンは、この日クラブにいたのではないか?と疑われ、ジョ・クォンのSNSには多くの人が、クラスターの起こった日何をしていたか説明を求める書き込みをするようになった。ジョ・クォンはあきれながらも、「その日の夜は家で人気ドラマ"夫婦の世界"を観ていた」と声明を出す始末にまで発展している。 ===== セクシャルマイノリティに強制カミングアウト さらに、この問題はセクシャルマイノリティへの嫌悪だけでなく、強制カミングアウトの恐れがあると懸念されている。 カミングアウトとは、自分がセクシャルマイノリティであることを、家族や周囲の人たちに公表することである。もちろん、必ずしもカミングアウトしなくてはならないわけではない。するもしないも本人の自由である。 極めて個人的であり重要な告白となるため、本来ならば自分の決めたタイミングで行うべきだが、これまで韓国が新型コロナの対応で成功してきたように、感染者の辿ったルートをGPSやカードの利用明細から割り出し徹底的に公表することによって、強制的にセクシャルマイノリティであることが公になってしまうという事態は避けなければならない。 これまで感染ルートを公にして成功してきた韓国だからこそ、今回の梨泰院のクラスター発生は感染者のプライバシー保護問題にぶち当たってしまった。 これまでと同様に感染者の足取り公開が徹底的に行われるだろうが、これ以上セクシャルマイノリティの人びとへの差別や偏見に繋がらないよう願わずにはいられない。 【関連記事】 ・「新型ウイルスは実験室で生まれた可能性もある」とする論文が登場 ・韓国政府、「K防疫」の成果を発信する最中に集団感染が再発 ・トヨタ、国内工場は6月も生産調整 工場稼働状況まとめ ・緊急事態宣言、全国39県で解除 東京など8都道府県も可能なら21日に解除=安倍首相   ※画像をクリックするとアマゾンに飛びます2020年5月26日号(5月19日発売)は「コロナ特効薬を探せ」特集。世界で30万人の命を奪った新型コロナウイルス。この闘いを制する治療薬とワクチン開発の最前線をルポ。 PLUS レムデジビル、アビガン、カレトラ......コロナに効く既存薬は? ===== クラブで踊る元KARAギュリ BTSジョングクら男性アイドルの梨泰院訪問をスクープしたDispatchは、元KARAのギュリが梨泰院のクラブで踊っている映像も公開した。 디스패치 / Dispatch/ YouTube