<プロセスより結果、スピードが重視されるべき状況下にあって、ウイルスの封じ込め、検査、治療の3本柱の対応がもたついたのはなぜか。疫学者ではなく、経営者として提言するとすれば──。本誌「コロナ特効薬を探せ」特集より> 私がスポーツブランド、バーシティー・ブランズのCEOを務めていた頃、何度も繰り返していた言葉は「よりよく、より速く」だった。その言葉は社員にとって大きな意味があった。常に物事を改善するために努力すること、そして迅速に対応すべきことを思い出させたのだ。そのアプローチがあったからこそ、40年間の成功があった。 疫学者ではなく、経営者としてアメリカ政府の新型コロナウイルス対策を見たとき、私が懸念を抱いたのはこの点だった。4月初め、新型コロナウイルスとの戦いにいくつか進展があった。政府が感染の封じ込め、検査、治療の3つの分野で行動を起こしたのだ。一歩前進したと言える。問題は、なぜよりよく、より速くできなかったのかということだ。 新型コロナウイルスが国家と人々の健康と経済に与えたダメージに関して解決すべき問題は2つある。まず人々が健康であること。次に、病気になる心配がない状態になること。そうなるまで景気刺激対策は何もできない。経済において供給には相方、つまり需要が必要だ。健康でい続けられるという現実と、その実感の両方があることで、初めて需要が生まれる。 では、 封じ込め、検査、治療の3本柱に関して、よりよく、より速く対応するのを妨害したのは何だったのだろうか。 4月3日、米食品医薬品局(FDA)は医療従事者に対して、既に承認されているN95マスクの代用品になるとして、ウイルスの侵入と拡散を防ぐKN95マスクの使用をようやく承認した。KN95マスクは中国製だが、米国立労働安全衛生研究所が認定したN95マスクと同じ性能基準(新型コロナウイルスを含む0.3ミクロン以上の粒子を95%以上フィルタリングする)を満たしている。 また同日、米疾病対策センター(CDC)は感染拡大を防ぐために公共の場ではマスクや布で顔を覆うよう推奨した。医療従事者用にN95マスクを確保するため、一般人にはN95は勧めないとしている。 ここで2つの疑問が浮かぶ。まず、なぜ政府が常識的な勧告を出すのにそれほど時間を要したのか。そして、なぜアメリカ国民は政府に常識的な勧告を出させる必要があったのか。 平時なら取らないリスクを取る 1つ目の疑問に関して思うのは、専門家はマスク着用が100%効果的ではないことを知っているからこそ、市民には「確実ではないが念のためマスクをする」という発想ができるほどの「知恵はない」と考えていたのではないかということだ。 私たちは「平常時」に、医療関係者がN95ではなく普通のマスクを着用していることを知っている。マスクに意味がないのなら最初から着ける必要などない。使うのは、何もしないよりは明らかにましだからだ。 ===== 2つ目の疑問については、政府が危機の中で全権を握る存在になると、人々は本能的に自分で考える義務を放棄し、「専門家」に委ねてしまうからだろう。要するに、私たちはもっと自分の頭で考えるべきなのだ。 検査に関しては4月3日、米ヘルスケア企業のアボット研究所が開発した5分でウイルス判定ができる検査キットをFDAがようやく承認した。それまでは、CDC承認の検査と規定と手順を満たした上で、感染リスクが高い人にのみ許可されていた。この承認が遅かったせいで、「市場投入速度」が大幅に妨げられた。いまカリフォルニア州のある会社は、自宅で指に針を刺すだけで瞬時にウイルス判定できる検査キットのFDA承認を待っている(5月中旬時点で、いくつかの抗体検査キットが承認されている)。 この検査が実現すれば、人々は仕事に戻ることができる。さらには、血液に含まれる抗体で感染症に対抗することもできるかもしれない。 経営者としては、政府による現在の治療対策はもどかしい。今では誰もが、ヒドロキシクロロキンと抗生物質アジスロマイシンの組み合わせが新型コロナに有効かもしれないとの記事を書いたフランス人研究者を知っている。FDAがこれを承認したのは4月になってからだ(※編集部注:現在は推奨されていない)。この危機の中で、なぜそんなに時間がかかったのだろうか。 スコット・ゴットリーブ前FDA長官がウォール・ストリート・ジャーナル紙やソーシャルメディアで指摘したように、ほかにも生産してから治験できる治療法がいくつかあるようだ。治験してから生産する通常のプロセスに比べて数カ月は早くなる。これは、成功するのは1つしかないという可能性を知りながら、複数の投資を同時に行うベンチャーキャピタルの手法と同じだ。 私たちは今、政府の一部が引き起こした2つの政策の分断を経験している。つまり、ウイルスを封じ込めるために経済全体をシャットダウンすることと、以前と変わらない通常のアプローチを続けながら100%確実な解決策を見つけること。経営者なら、この2つが同時にできないことを知っている。 この病気に打ち勝つためには、起業家的なアプローチを取る必要がある。平常時なら取らないリスクを取り、先回りをしてウイルスと戦わなければならない。起業家として、私は時としてプロセスよりも結果が優先されることを知っている。 私たちの大統領も起業家としての経歴を持つ。その経験を今こそ生かしてほしい。いま求められているのは、司令官トランプではなく、起業家としてのトランプなのだから。 <2020年5月26日号「コロナ特効薬を探せ」特集より> 【参考記事】アビガンも期待薄? コロナに本当に効く薬はあるのか 【参考記事】自動車会社は人工呼吸器をどうやって量産しているのか ※画像をクリックするとアマゾンに飛びます2020年5月26日号(5月19日発売)は「コロナ特効薬を探せ」特集。世界で30万人の命を奪った新型コロナウイルス。この闘いを制する治療薬とワクチン開発の最前線をルポ。 PLUS レムデジビル、アビガン、カレトラ......コロナに効く既存薬は?