<中国政府が「1国2制度」を実質的に破棄しようとしている、と人権団体や香港民主派は危惧する> 香港での国家分裂行為、反逆、暴動を禁止する「国家安全法」を適用させる中国政府の方針は、香港の高度な自治の終焉を意味する、と国際NGOヒューマン・ライツ・ウォッチなどは21日、危機感をあらわにした。 この「香港における法体系と執行メカニズムを確立、強化する」法案は、22日から始まる中国の全国人民代表大会(全人代)の議題になることが21日、明らかになった。通常ならば香港立法会(議会)の議決を経なければならないが、今回はそれを回避して適用される見通し。香港で激化する反中国政府、民主化デモを厳しく取り締まるのが狙いだ。 22日午前に本誌の取材に応じたヒューマン・ライツ・ウォッチの上級研究員マヤ・ウォンは、国家安全法によって「我々が知っている今の香港は終わる」と訴えた。 過去の中国の動きを考えれば、「香港のあり方が根本的に変えられる」ことは間違いない、とワンは言う。「香港の様々な基本的自由、価値観は制約され、香港の生活は激変するだろう。例えば、メディア報道の自由、言論の自由、市民社会存続の可能性などが問題となる」 抗議デモ、自由な発言は許容されない ヒューマン・ライツ・ウォッチ中国部長のソフィー・リチャードソンは、これによって「香港の規範、慣習、関係する国際条約を中国政府が尊重するという『見せ掛け』は終わりを告げた」と見ている。 「最大のダメージは、抗議デモで街頭に出て、言いたいことを言っても中国に許容される、という期待は持てないことだ」と、リチャードソンは話し、今後香港のデモ参加者は、中国の安全の脅威とみなされる行動を避けるように注意しなければならない、と指摘した。 1997年にイギリスから中国に香港が返還された際、中国は高度の自治を維持する「1国2制度」を保証した。また中国政府は普通選挙の実施を約束したが、20年以上が経過した現在も、見せ掛けの民主制度にとどまっている。香港市民は投票権を持っているが、議会候補者のリストは中国の承認を経なければならない。 84年の中英連合声明で保証された「1国2制度」は、2047年に失効期限を迎える。しかしリチャードソンによれば、国家安全法は、中国政府がその期限よりも早く香港を吸収したい考えを持っていることを意味している、という。「これで一気に(失効期限の)2047年が近づいた」 ===== 当然ながら、香港の民主派は猛反発している。公民党議員のデニス・クウォクは、「国家安全法が適用されれば『1国2制度』は公式に消滅する。それは香港の終焉を意味する」と述べている。 中国共産党は、中国の国家統治を弱体化させようと企む外部勢力から主権を守るために、この国家安全法が必要だと見ているようだ。2003年に香港政府は、令状なしの捜索や問題のある新聞の発行停止を可能にする、同趣旨の「国家安全条例」を提案しようとした。しかし、抗議デモが激化することを恐れて提案には至らなかった。 中国共産党傘下の英字新聞「チャイナ・デイリー」は21日付けの社説欄で、今回の国家安全法が抑止力として働き、「国家の安全を脅かす勢力」の言動の責任を問うことができる、と述べている。 ますます拡大する中国の影響力 リチャードソンは、中国政府は世界に対して冷酷なメッセージを送っていると指摘する。「どのような法的規制も相互合意も、中国政府は自分たちが考えた通りの意味として受け止め、中国に適合するように解釈する」ことを意味しているという。 「中国政府と合意事項を結んでいるいかなる国も、そうした合意に期待することはできない」と、リチャードソンは言う。 またワンは「香港を失えば、中国を道義的に監視してきた強力な民衆の力を失う」と話す。中国政府がその影響力を拡大し、ますます強力になる現状下では、その意味は大きいと言う。「中国の人権侵害は、もう中国本土だけにとどまらない」 情勢は厳しいように見えるが、リチャードソンは香港民主派の若者たちが国家安全法を受け入れず、すぐに抗議行動を再開するだろうと考えている。しかし、こうした抗議行動こそ、国家安全法が潰そうとしている対象だ。 2014年の香港の民主化デモ「雨傘運動」の指導者、黄之鋒(ジョシュア・ウォン)は18年の本誌インタビューで、香港の民主化が「実現するまで」戦い続けるとその決意を語っていた。 「10年後くらいの期間ではまだ、我々は同じように戦っているだろう」とウォンは語った。「近い将来、(世界の)人々が香港のことを、ジャッキー・チェンや飲茶の故郷というだけでなく、市民が民主主義の実現のために戦っている場所として認識してもらえることを願う」 【関連記事】香港民主化を率いる若きリーダーの終わりなき闘い =====