<留学生受け入れに力を入れてきたオーストラリアだが、コロナ危機になると「自力で生き延びるか母国へ帰れ」と方針転換。これでは外国人に選ばれない国になってしまう> 今年4月上旬、オーストラリアのスコット・モリソン首相は、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)の期間を自力で乗り切る生活費がなくなった一時ビザ保有者は、オーストラリアでは歓迎されないという明確なメッセージを送った。 「平穏な時にオーストラリアを訪問してくださることはありがたいのですが、今のような時期には、この国を訪問している立場のあなたがたには、家に帰っていただきたい」 首相のこの声明は、新型コロナウイルス危機に際して政府の経済支援対象から除外された一時ビザ保有者に、自分たちは見捨てられた、無価値な存在だと痛感させた。最近発表された調査結果で、そのことが明らかになっている。 私たちは一時ビザ保有者(留学生、バックパッカー、ワーキングホリデー利用者を含む)6100人以上を対象とした調査を行った。多くの回答者が、半年前にオーストラリアで新型コロナのパンデミックが始まって以来自分たちが感じていたことを、次のように赤裸々に表現した。 • 「私たちなど存在していないも同然だ」 • 「ここに属していないよそ者だ」 • 「生きていない物体」 • 「取るに足りず、廃棄される消耗品」 • 「ゴミ」 • 「汚物」 人種差別的な攻撃を受けた悲惨な経験を語った人もいた。殴られ、蹴られ、押しやられ、通行人から唾を吐かれたり、咳を吹きかけられたりした。さまざまな外国人差別の中傷も受けた。調査回答者の多くは、こうした経験で、オーストラリアへの帰属意識が打ち砕かれ、この国と指導者に対する認識が根本的に変わったと語る。 オーストラリア政府のATM 以前行った調査と他の学者による研究によって、危機の間に一時ビザ保有者が財政的に苦境に陥ったことが記録されている。 こうしたビザ保有者には、留学生、バックパッカー、卒業生、雇用スポンサーのいる労働者、難民が含まれる。サービス業や小売業など、パートタイム主体の業種で働く一時ビザ保有者の多くは職を失い、ぎりぎりの生活費の確保に苦労した。 オーストラリアには100万人以上の一時ビザ保有者がいて、その割合は多ければオーストラリアの労働力の10%を占める。だが彼らは、政府の雇用維持および職業斡旋システムから除外されている。 最新の調査では、何千人もの回答者が、ロックダウン中に政府の支援を受けられないことに苦痛と怒りを表明した。多くの回答者が、オーストラリアは自分たちを金づるとして見ていると感じている。この国で働いて税金を払い、大学での勉強にかなりの金額を費やすからだ。 第二の家のはずが 多くの人が自分たちのことを「ドル箱」、「金のなる木」、「オーストラリア政府のATM」、「歩く財布」といった言葉で表現した。そして低賃金労働の担い手として無神経に使用されていると感じていた。修士課程に在籍するあるロシア人学生はこう語った。 「私たちは税金を払った。オーストラリア人がやりたがらないあらゆる汚れ仕事をした。そしてどうなった?国民が家族とともに家にこもり、自宅で仕事をし、政府の支援を受け、一銭も損をしていないときに、黙って一生懸命働く、都合のいい低賃金労働者だ」 特に留学生は、オーストラリアでの新生活のために多くの資金を投じるよう政府や大学から促されている。多くは少なくとも5年間滞在する。3年かけて学士号を取得すると、その後2年間卒業生ビザが取得できるからだ。 卒業ビザで滞在するあるフランス人大学院生はこう語る。「なかには何年もここにいて、オーストラリアを自分の家のように考えている人もいる。やってきたこと、経験してきたことすべてを捨てるなんて想像もつかない」 人種差別的な中傷と挑発 社会的排除どころか、あからさまな人種差別といえる体験を語った人々もいた。回答者のほぼ4分の1は、3月にパンデミックが始まって以来、人種差別的な言葉による虐待を受けたと答えた。そして4分の1は、外見のせいで、人々に避けられたことがあると語った。 中国人回答者の半数以上 (52%)が、いずれかの形で人種差別をされたことがあると報告している。他の東アジアおよび東南アジア諸国出身者では40%以上が人種差別を経験していた。 また、人前や職場で「コロナウイルス」、「中国ウイルス」、「アジアウイルス」など人種差別的な中傷の標的となったという事例が1600件以上寄せられた。 ある中国人女性はこう語る。「見知らぬ人が、スーパーマーケットで、私の顔に向かって、こいつはウイルスだ、と叫んだ」 別の留学生は、この種の嫌がらせは、オーストラリア在住アジア人にとって、ごくありふれたことだと言った。 4月の首相の言葉に呼応して、さまざまな国籍の回答者が「オーストラリアから出て行け」と言われたと報告した。「オーストラリア人からたくさんのコメントがきた。ここから出ていけ、自分の国に戻れ、自分の家族に金を送ってもらえ、オーストラリア人を尊重しろ、と言われた」 あるインドの学生は、こう語る。「ウーバー・イーツの配達員として働いているとき、知らない人に路上で、自分の国に帰れ、と言われた」 困った時に見捨てられた 一時ビザ保有者が外国人として排除された影響は、パンデミックの影響をはるかに上回るだろう。 政府が弱い立場にある人々を支援しなかったことは、オーストラリアの世界的な評判に大きな影響を与える可能性を秘めている。同国の教育・観光部門は今後数年にわたってその影響に苦しむ可能性が高い。 私たちの調査の対象となった学生およびワーキングホリデー利用者のうち60%が、勉強や仕事の場所としてオーストラリアを推薦する可能性は低い、あるいはとても低いと答えた。 これには、中国やネパールなどオーストラリアの教育産業にとって重要な市場からの留学生が含まれている。オーストラリアを推薦する可能性は、それぞれ76%と69%と低い。 私たちの調査は、多くの回答者の財政状況が急速に悪化していることを明らかにし、留学生の3分の1以上が10月までに生活資金を使い果たすことを示した。 政府は10月の予算を使って、一時ビザ滞在者を社会支援措置から除外した現在の制度を是正しなければならない。 倫理的または外交上の理由で行動しないのであれば、政府は少なくともある調査回答者の見解に耳を傾けるべきだ。次のコメントは、他の数千人が感じたことを象徴している。 「オーストラリアは留学生に関してその本性をあらわした。彼らは私たちを友人と呼ぶが、私たちが困ったときには、手を差し伸べない。新型コロナウイルスのパンデミックの間に、オーストラリアは留学生に対する不名誉な扱いと思いやりの欠如を示した。これからは留学生の招致に苦労するだろう」 (翻訳:栗原紀子) Bassina Farbenblum, Associate professor, UNSW and Laurie Berg, Associate Professor, University of Technology Sydney This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.