<すぐには核合意に復帰しそうにないアメリカに苛立つイラン、イランの核武装を警戒するイスラエル、三つ巴の駆け引きはどちらに転んでもおかしくない> イスラエル軍のトップが新たな作戦計画に言及してイランを威嚇した翌日、イランは計画が実行されたら、地中海に臨むイスラエルの2つの都市を壊滅すると宣言した。 イスラエル軍のアビブ・コチャビ参謀本部長は1月26日、テルアビブ大学国家安全保障研究所のスタッフに向けた演説で、ジョー・バイデン米大統領が2015年に米英など6カ国とイランが締結した核合意に復帰するか、制裁緩和などの措置を取ることは「作戦上、また戦略上まずい」選択だと語った。 イランは一貫して否定しているが、イスラエルはイランが核武装を目指しているとみており、アメリカが制裁を緩めれば、イランの核開発が加速すると、コチャビは警告した。 コチャビによれば、イランは配下の武装組織を通じて中東全域で工作活動を展開している。これを抑えるためにイスラエル軍は既にレバノンとシリアの親イラン派組織の拠点に空爆を実施しているが、アメリカの政権交代に伴う情勢の変化を分析し、新たな作戦計画が必要だと判断したという。 「既存の計画に加えて、新たに複数の作戦計画を準備するようわが軍に命じた。今後1年を目処に計画をまとめる。もちろん実行を決定するのは政府だが、即座に実行できるよう準備しておかなければならない」 ブラフだと反発 これにすぐさま反応したのはイラン軍のアボルファズル・シェカチ報道官だ。イランの半国営通信社タスニムの1月27日の報道によれば、シェカチはコチャビの発言を「心理戦」にすぎないと切って捨てつつ、こう警告した。 「(イスラエルが)ほんのわずかでも過ちを犯せば、われわれは可及的速やかに(イスラエルの主要都市)ハイファとテルアビブを完全に破壊する」 イランのハサン・ロウハニ大統領の首席補佐官を務めるマフムード・バエジも1月27日、イスラエルにはイランを攻撃する「計画もなければ、それを実行する能力もない」と断言した。 「口先ばかりで心理戦を仕掛けようとするシオニスト政権の高官がもてあそぶ脅し文句など、わが国民も中東の人々も聞き飽きている」 最近イラン軍と革命防衛隊の複数の部門が立て続けに実施した演習が示すように、「われわれは侵略や戦争する気はないが、(他国の攻撃に対しては)祖国を全力で防衛する」と、バエジは力を込めた。 ===== バエジはまた、ドナルド・トランプ前米大統領がイスラエルにすり寄り、2018年に核合意から離脱したことを非難。トランプの娘婿で上級顧問を務めたジャレッド・クシュナーをイスラエルの「手先」と呼ぶ一方、バイデン新政権には一定の期待を示した。 バエジはバイデンに早急に核合意に復帰し、トランプ時代にイランに課した過酷な経済制裁を解除するよう呼びかけた。トランプの「最大限の圧力」政策はイランと敵対するイスラエルやサウジアラビアには歓迎されたが、地域の緊張を極度に高める結果となった。 しかも米軍は昨年、イラン革命防衛隊の精鋭部隊クッズ部隊の司令官ガセム・ソレイマニをイラクで殺害。イランは報復としてイラクの駐留米軍基地をミサイル攻撃し、さらなる復讐を誓った。 イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は1月27日、新型コロナウイルスのワクチン接種イベントで、イランの核武装を何としても阻止する考えを改めて強調した。 「私が推進している政策は明白だ。イランの核兵器保有は断じて許さない。敵味方を問わず、私はそう宣言している。わが国の命脈を守ることは、われわれの最も重要なミッションだ」 バイデンも新政権の高官も、トランプの中東政策を批判しているが、早急に核合意に復帰する考えは示していない。バイデンが国務長官に指名したアントニー・ブリンケンは、1月19日に上院で行われた指名承認のための公聴会で、復帰までには「長い道のり」があると語った。 どちらが先に折れるか 上院の指名承認の翌日、1月27日に開いた就任後初の記者会見で、ブリンケンはその理由を次のように述べた。 「イランは複数の分野で合意を逸脱している。合意順守を決定しても、順守している状態に戻るにはある程度時間がかかるだろう。イランが義務を履行しているかどうかわれわれが査定するにも時間がかかる。われわれはまだそこに至っていない」 こうした発言はイラン当局を苛立たせる。イランは今年に入り、核合意で定められた上限を大幅に上回り、核兵器級に近い濃縮度20%のウラン製造に踏み切った。だがそれも、核合意の条件だった制裁解除がトランプの離脱で履行されなかったために、「一時的にウラン濃縮度の上限を超えた」のでだ。 まずはアメリカが合意に復帰すべきで、そうすれば自分たちも約束を守る、というわけだ。「いったいなぜ、核合意と国連安全保障理事会の決議に違反する(アメリカの)残酷な経済テロに4年間も毅然として耐えてきたわれわれが、先に友好的なゼスチャーを示さなければならいのだ」と、イランのジャバド・ザリフ外相は1月26日に怒りのツイートをした。 「理由もなく合意を踏みにじったのはアメリカだ。まずアメリカが過ちを正すべきだ。そうすればイランもそれに応える」 ===== ロウハニ大統領も同日に行われた閣僚会議で次のように述べた。 「われわれはかつてなく確信している。敵の経済戦争は失敗し、終わりを迎えつつある。今ではごく少数の国々を除く世界がアメリカに核合意に復帰し、約束を守るよう呼びかけている」 バイデンは公式に発表した外交政策で核合意の意義を認め、トランプの離脱を批判し、合意復帰を目指す考えを示しているが、当然ながらイランの合意順守が先だと明言している。 「イランが履行義務を守るなら、バイデン大統領は合意に再び参加するだろう」と、政策文書は述べている。「(バイデン政権は)断固たる外交姿勢を貫き、同盟国の支援を得て、合意を強化・延長する。その一方で、地域を不安定化させるイランのそのほかの活動をより有効に抑え込む」 この文言どおりにできれば、言うことはないのだが......。ちなみにイランに加え、核合意に参加した他の5カ国、中国、フランス、ドイツ、ロシア、イギリスもアメリカに復帰を呼びかけている。